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[作品データ]沈黙の木(2003)11'40[ac]

沈黙の木
アクースマティック・ミュージック
武満徹に捧げる
OP.10
制作年:2003 / 作品時間:11'40
La Muse en Circuit委嘱

■作品データ
完成日:2003年9月13日
制作スタジオ:La muse en circuit(パリ/フランス)
時間:11分40秒
テキスト:谷川俊太郎、J. KRISHNAMURTI 、後藤幸彦、檜垣智也
声:Elise CARON
声の録音:Laurent SELLIER
翻訳協力:Denis DUFOUR、榊原由紀子、板倉ひろみ
他:La Muse en Circuitの第5回ラジオアートコンクール入賞者によるCD出版、コンサート、ラジオ放送のために作曲。

■作曲ノート
“沈黙を語ることができるものは、沈黙それ自身しかない。では、言葉をもって沈黙を語ろうとすることに、どんな意味があるのか。それにはむしろ意味がない。何故なら、詩人にとって、沈黙を語ることはひとつの戦いなのだから。”
谷川俊太郎 :エッセイ「沈黙のまわりに」より

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私たち音楽家も、いつも沈黙と戦ってきた。

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このプロジェクトのために私は、沈黙について語ったまたは戦った人々のテキストを集め、その言葉から受ける印象を私たちが沈黙と戦うための音楽として、テキストとともに提示する。

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Nous n'observons jamais profondément la qualité d'un arbre. Nous ne le touchons jamais pour sentir sa solidité, la rugosité de son écorce, pour écouter le bruit qui lui est propre. Non pas le bruit du vent dans les feuilles, ni la brise du matin qui les fait bruire, mais un son propre, le son du tronc, et le son silencieux des racines. Il faut être extrêmement sensible pour entendre ce son. Ce n'est pas le bruit du monde, du bavardage de la pensée, ni celui des querelles humaines et des guerres, mais le son propre de l'univers.

J. KRISHNAMURTI “Dernier journal” (Ed. du Rocher)

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この「沈黙の木」は、私の記憶、希望そして、名前を奪ったために、私はそれらを取り戻すために戦い続けなければならない。

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“生きるために、詩人は言葉をもって沈黙と戦わなければならない。それが詩人の義務である。沈黙を語ろうとすることも、沈黙との戦いのひとつである。それがたとえ愚かな試みであろうとも、私は常に詩人であろうと努めねばならない。”
谷川俊太郎:エッセイ「沈黙のまわりに」より

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「沈黙の木」は、だれも見ることができない。聴くこともできない。なぜなら、それそのものが沈黙であるからだ。それは音の影のようなものだ。影は影だけでは存在できないのと同じように、沈黙も沈黙だけでは存在できない。沈黙と戦うためには、まず沈黙をみつけなければならない。沈黙と渡り合えるほどの力強い音を世界に投げ込んだ時、「沈黙の木」は少しだけ顔を表し、その気配を私たちは見つけることができるだろう。私はそのために作曲する。

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沈黙は生まれない。無限の宇宙であり、宇宙の生まれる前だ。沈黙はなにも受け入れないし、なにも否定しない。沈黙は沈黙そのものでしかないと同時に、沈黙は沈黙だけでは存在しない。

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沈 黙


後藤幸彦


田んぼ道を歩いていた。
しばらくするとまだひっそりと、まるでうねるように横たう静寂を発見した。
はじめは満面の好奇心を抱えつつ。
遊び心で静寂を打ち砕いてみようとする。
膨大な時間の反復のおおきさにうっかりすると自分自身が打ち砕かれそうになった。
力を振り絞って静寂から身を起こし、ふとまわりを見わたして見ると、まわりに過去の沈黙のかけらを発見する。
貝殻のような形をした過去の沈黙。
ひろいあげてみる。
その貝殻がヒューヒューとしたメロディを奏でる。
その先には。
ヒューヒュー、トントン、タンタン、トントン…
足元にころがっていた過去の沈黙をにぎりしめ、川岸をあとにする。


©2003 Yukihiko GOTO. All rights reserved.
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この作品は、沈黙と戦う人たちへのオマージュであると同時に、僕が沈黙と戦った記録である。しかし、沈黙は決して負けない。なぜなら、この作品を終えたときに、また僕は「沈黙の木」にすべてを奪われてしまうからである。

■収録CD
ELEMENT/5e Concours d'art radio phonique
コンピレーションCD
発売:2004年1月19日
制作・出版:La Muse en Circuit

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